本物の大人になるヒント―知っておきたい「良識ある人間」の考え方

本物の大人になるヒント―知っておきたい「良識ある人間」の考え方

久々の曽野作品。
変わらぬ歯切れのよい文章にほれぼれ
勿論、内容にも納得!

13 自分勝手に黙っていることは一種の暴力である
  「沈黙は金」ということはない。もちろん喋り方にもいろいろあって、立 て板に水を流すように喋る必要はない。しかしその人らしく、ぽつりぽつ りでもぶつぶつでも、その場に合わせて喋るということは、ぜひとも守ら ねばならないことだと思う。
  私は社交的であれ、などといっているのではない。そういう席で自分勝 手に黙っていることは、まわりの人にはっきりと困惑と苦痛を与えるか  ら、それは一種の暴力だと思うのである。



15 社交は人間教育の一つのチャンスである 
  あらゆる形において、社会と接触するということは、自らを心理的にコ ントロールする必要に迫られ、それが人間の精神をきたえ、柔軟にする。 その柔軟さが学問や事業を達成する場合の触媒作用を果たすのである。



54 どんな人にも感情の捌け口が必要である  
  人間の感情もまた下水と同じで、必ず出口を作ってやらないと溜まっ  て、所ならぬところから溢れ出す。



55 沈黙によって閉ざされた精神には毒が回る
  人間はまず第一に食べねばならない。それは確かである。しかしそれと 同時に、人間の精神は開放されねばならない。



66 男でも女でも、かっとなる人は弱い人である
  かっとなったときに人間は攻撃的になり、あたかも強者の如く見える。 しかしそれはヒステリー以外の何ものでもない。弱い人間は正視し、調  べ、分析するのを恐れる。自分自身もその対象にされて分析されるのを恐 れるからである。
  しかし本当に強ければ、怒る前にまず対象に対する冷静なデータを集め 始める。その対象が好きか嫌いか、などということはずっとずっと後のこ とでいい。好くにも嫌うにも、認めるにも拒否するにも、まず知ることで ある。



81・82 職業に満足するコツ
一 小さく守って充実させる
  私は日本人は、自分の人生に夢を描きすぎるのだと思う。「青年よ大志を抱け」というのは悪くないが、大風呂敷を拡げすぎれば満たされない不満ばかりが残る。どんな学者も、芸術家も、実業家も、一生にできる仕事の量は限られている。小さく守って、そこを充実させることの方が私は好きである。
二 他人の評価によらない
  日本人の人生や職業に対する評価は、自分が満たされるかどうかより、他人がそれをどう思うかで決められる場合が多いから、一向に自足しないのである。



86〜90 仕事の成功・不成功を分けるもの
一 サービス精神
二 楽をして仕事をする
三 「続かない」性格
  人生の成功のヒケツは、頭がいいことでもない、学歴でもない、器量でもない。むしろウン、ドン、コン(運・鈍・根)なのである。
四 一人でできるか
  すべてのことは自分で決定し、その結果はよかろうと悪かろうと、一人で胸を張って引き受けるほかはない。本当に学ぶのは一人である。良き師に会い大きな感化を受けることはよくあるが、それも自らが、学ぶ気持ちがない限りどうにもならない。
五 自分に甘い 
  自分に厳しくあれば、必ず或る程度成功する



98 決まった仕事がない状態で、精神を健全に保つことは難しい
  われわれ普通の人間は、なにがしかの仕事をしているのが常態なのであ る。
  そして人生の大半を過ごす、「仕事をする人間」の時代が、納得いくもの かどうかによって、その人の一生の成功か不成功かは決まってくるといえ る。



107 勝負事は人生の時間の浪費に近い  
  勝負事は人間に架空の人生を生きているような錯覚を与えるのであろう。自分の手許に入って来る運命の変化は、実人生よりずっと早いテンポ で行われるので、いっとき私たちは現実の生を忘れられるのである。
  しかし、勝負事が、勉強時間のさまたげになることもまた明らかである。それは大体において後に何かが残って生きるという時間ではない。